岡山地方裁判所 平成4年(ワ)1001号 判決 1994年10月28日
原告
増田アヤ子
被告
丹下晃一
主文
一 被告は、原告に対し、金一八一万二四一四円及びうち金一六一万二四一四円に対する平成三年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを六分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一一九七万二三八〇円及びうち金一〇八七万二三八〇円に対する平成三年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(本件交通事故)
(一) 発生日時 平成三年一月一八日午前一〇時四五分ころ
(二) 発生場所 岡山市中島田町一丁目四番二号先交差点
(三) 加害者 被告
(四) 被害者 原告
(五) 加害車両 自動二輪車(岡山す三九九一)
(六) 被害車両 自転車(岡山西A一六九八三)
(七) 事故態様
原告は自転車で本件現場の交差点を北から南へ横断しようとしたところ、西から交差点に進入しようとしてきた被告運転の自動二輪車が、原告運転の自転車に衝突し、よつて、原告の自転車を転倒させて、原告に対し左大腿骨転子部骨折等の傷害を負わせたものである。
2(責任原因)
本件交通事故は、被告が左右の安全確認を怠つた、被告の一方的過失に基づくものである。
3(原告の入通院期間)
(一) 入院期間 九一日間
光生病院 平成三年一月一八日から同年四月一七日まで
(二) 通院期間
光生病院 平成三年四月一八日から現在まで通院(実治療日数二八日間)
4(損害) 金一四五六万七五八〇円
(一) 治療費 金二八万七七三〇円
(二) 付添費用 金七五万八〇八〇円
家族の付添日数 九一日間
家族の付添費用 一日六〇〇〇円
付添人交通費 一日一万九二八〇円、一一日分(京都在住の娘)
6000円×91日=54万6000円
1万9280円×11回=21万2080円
54万6000円+21万2080円=75万8080円
(三) 入院雑費等 金四四万四二一四円
入院期間 九一日間
一般の雑費 一日一〇〇〇円
特別の雑費(洋式トイレ等) 三五万三二一四円
1000円×91日=9万1000円
9万1000円+35万3214円=44万4214円
(四) 通院費 金五万〇〇七〇円
(五) 入通院慰謝料 金二五〇万円
入院期間九一日、現在も通院中
(六) 後遺症慰謝料 金六〇〇万円
原告は、本件交通事故により、左大腿骨転子部骨折等の傷害を受けて、左足傷害痕及び歩行困難の後遺障害を受けている。
左足の機能障害は後遺障害等級表の一〇級一一号に該当し、左足の手術痕は後遺障害等級表の一二級一四号に該当し、結果的には、一級重い後遺障害等級表の九級に該当する。
(七) 逸失利益 金三四二万七四八六円
七〇歳の平均給与 一八万七〇〇〇円
就労可能年数 五年
新ホフマン係数 四・三六四
労働能力の喪失率 〇・三五
18万7000円×12×4.364×0.35=342万7486円
(八) 弁護士費用 金一一〇万円
被告が任意の支払をしないため、本件訴訟を提起したものであり、本件交通事故と因果関係のある弁護士費用としては一一〇万円が相当である。
以上を合計すると一四五六万七五八〇円となる。
よつて、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、前記損害額金一四五六万七五八〇円から填補を受けた金二五九万五二〇〇円を控除した金一一九七万二三八〇円及びこれから弁護士費用を控除した残金一〇八七万二三八〇円に対する本件交通事故の日の翌日である平成三年一月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)ないし(六)は認める。
同1(七)のうち、原告が自転車で本件現場を北から南へ横断しようとしたこと、被告は西から交差点に進入しようとしていたこと、原告の自転車が転倒したこと、原告が左大腿骨骨折の傷害を負つたことは認めるが、その余は否認する。
本件事故は、ほぼ停止状態にあつた被告の自動二輪車に自転車に乗つた原告が衝突し、原告が転倒したものである。
2 同2は否認する。
本件交通事故は、原告が前方注視を欠くとともに、被告車両を発見後も速やかに制動措置を講じなかつたことによるものである。
3 同3(一)は認める(ただし、入院期間は九〇日である。)
同3(二)は知らない。
4 同4は否認する。
(一)((二)付添費用)医師の説明によると、身動きのできなかつた入院当初の二、三日以外は付添人は必要でなかつた。
(二)((六)後遺症慰謝料)原告が認定を受けた後遺障害は一二級である。
(三)((七)逸失利益)原告は無職の年金生活者であり、本件交通事故による逸失利益はない。
また、一二級の後遺障害による労働能力の喪失率は一四パーセントである。
(四)((八)弁護士費用)被告は、原告との円満解決を図るため、平成三年一一月二九日に調停の申立をし、平成四年一月二二日の調停期日には、調停委員を通じて、原告が後遺症の認定を受けることができれば、原告の希望していた金三〇〇万円に多少でも近い金額の保険金の支払が得られる旨の説明をしてもらい、その手続期間として二か月の余裕をもうけ三月二三日を第二回期日としたが、原告側において右手続をしなかつたことから調停委員において調停を断念したもので、訴訟提起にまで至つた点につき、被告側に帰責性はない。
三 抗弁
1(過失相殺)
仮に本件交通事故の発生につき、被告に過失があるとしても、それは一ないし二割にすぎない。
すなわち、
(一) 被告は、本件事故現場に向かつて西から走行し、一旦停止の道路標識にしたがい、停止線の辺りで停止し、左折するつもりで、まず右側の安全を確認し、次に左側の安全を確認しようとしたが、左側には小野部品株式会社の車両が二列に駐車し、荷台には配達用の荷物を積む等して見通しがきかなかつたことから、左側を注視しながら半クラツチの状態にしてトロトロと前進した。
(二) 被告にとつて原告の姿を確認することは、ほぼその衝突地点まで不可能であり、左の安全が確認できる地点でもう一度止まつて安全を確認することは、自動二輪車から下車しない限り不可能であつた。
(三) 被告の自動二輪車は、衝突時点でほぼ停止していた。
(四) 原告は、被告が走行する道路の状況が非常に見にくかつたのであるから、被告の走行する道路を渡る前には、何かを発見したら直ちに停止できるスピードにまで減速すべき注意義務があるのに、原告は何ら減速措置を講じていない。
(五) 原告は、何かを発見したら直ちに停車等をして結果を回避できるよう前方を注視する注意義務があるのに、前方注視を怠つていた。
(六) 衝突後も、原告の自転車はすぐに転倒することなく、その前輪を被告の自動二輪車の前輪とカウリングの間に挟み込まれた状態で直立していたのであるから、通常人であれば、直ちに片足を接地する等の結果回避措置を講ずることにより転倒することは未然に防ぐことが可能であつた。
2(損害の填補)
本件交通事故の損害賠償として、原告に対し、被告(治療費の立替払)から金二六万三八九〇円、自賠責保険から金二五九万五二〇〇円の合計金二八五万九〇九〇円が支払われている。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。
(一) 本件事故現場において、被告は、小野部品株式会社の駐車場に停車している車両により、左方の確認が全くできない状態であつたから、本件交差点に進入するに際し、右停車車両の位置まで出てきて、停止し、昭和町方面から厚生町方面に進行していく人や自転車の通行の安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り進入したのであるから、本件交通事故は被告の一方的過失に基づくものである。
(二) また、被告が右の注意義務を尽くしておれば、原告を容易に発見することができた。
2 同2は認める。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(本件交通事故)(一)ないし(六)(発生日時、発生場所、加害者、被害者、加害車両、被害者両)については当事者間に争いがなく、同1(七)(事故態様)のうち、原告が自転車で本件現場を北から南へ横断しようとしたこと、被告は西から交差点に進入しようとしていたこと、原告の自転車が転倒したこと、原告が左大腿骨骨折の障害を負つたことは当事者間に争いがない。
右争いのない事実及び証拠(甲一の2、原告本人、被告本人)によれば、次の事実が認められる。
1 本件交通事故の現場の状況は、別紙交通事故現場見取図記載のとおりであり、被告運転の自動二輪車と原告運転の自転車が衝突した地点は、同見取図記載<×>地点であり、右衝突地点は、東西方向の道路(幅員三・五メートル、被告進行道路)と南北方向の道路(片側二車線)が交差する地点であり、右南北方向の道路には幅員三・七メートルの自転車通行が可能な歩道(原告進行歩道)が設けられており、右衝突地点の被告進行方向手前(右歩道と交差する地点)には一時停止の表示(一時停止線、一時停止標識)がなされている。
2 被告は、前記一時停止線において停止し、前記南北方向の道路に向かい左折しようとして発進し、前記見取図記載<4>地点に至り、初めて左方から歩道上を自転車に乗つて進行してくる原告を一・八メートル左方(同見取図記載<ア>地点)に発見し急制動をかけたが間に合わず、前記<4>地点から一・四メートル進行した地点で原告乗車の自転車と衝突した。
3 本件交通事故当時、被告進行方向左には、歩道にはみ出すように車両が停車しており、被告は停止線の位置からは、原告が進行してきた歩道の状況を確認することはできなかつた。
同様に原告からも、被告進行道路の状況を確認することはできなかつた。
4 右のような状況のもとで、被告はそれほどの速度は出していなかつたものの、左折進行を開始し、前記のとおり原告を発見したのは、原告が一・八メートルの地点に接近した状態であつた。
5 原告は、歩道上を自転車に乗車して進行し、特に被告進行道路について注意を払うこともなく進行し、被告運転の自動二輪車には衝突するまで気付かなかつた。
二 請求原因2(責任原因)について
前記に認定の事故の状況からすれば、被告には進路前方左右の安全の確認を怠つた過失が認められるから、被告は、民法七〇九条により、原告が本件交通事故により被つた損害を賠償すべき義務がある。
三 請求原因3(原告の入通院期間)について
1 原告が光生病院に平成三年一月一八日から同年四月一七日まで入院したことは、当事者間に争いがない(入院期間は九〇日間となる。)。
2 証拠(乙八、九、一〇の1ないし10、一一の1ないし83)によれば、原告は、平成三年四月一八日から平成四年九月二九日(症状固定日)までの間、次のとおり実通院二八日、光生病院に通院したことが認められる。
平成三年九月
二四日
平成四年二月
二四日
同年三月
二日、五日、九日、一六日、二三日、三〇日
同年四月
六日、一〇日、二〇日、二七日
同年五月
一一日、一八日、二五日
同年六月
一日、一五日、二九日
同年七月
六日
同年八月
三日、一〇日、二四日
同年九月
七日、一六日、一八日、二一日、二五日
四 請求原因4(損害)について
1 治療費 金二八万七七三〇円
証拠(甲二ないし一一、乙二、四)によれば、光生病院における治療費は二八万七七三〇円であることが認められる。
2 付添費用 金四〇万五〇〇〇円
証拠(甲一〇一、証人増田信一、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、前記入院期間中、その子及び姪に付き添われたことが認められ、またその必要性も認められるから、入院期間九〇日、一日当たり四五〇〇円として四〇万五〇〇〇円となる。
付添人の交通費については、その必要性を認めるに足りる証拠はない。
3 入院雑費等 金三八万六四二九円
前記のとおり入院期間は九〇日間であるから、一日一二〇〇円として一〇万八〇〇〇円となる。
証拠(甲九二、九六、九八、原告本人)によれば、ポータブルトイレ代として五一二九円、自宅の洋式トイレ改造費として二三万円、自宅の階段の手すり等設置費用として三万三〇〇〇円、リハビリ用の靴代として一万〇三〇〇円を要したことが認められ、これらは本件交通事故と相当因果関係のある損害と認められる。
以上を合計すると三八万六四二九円となる。
4 通院交通費 金三万七七一〇円
証拠(甲一九ないし二三、二六、二七、三〇ないし三五、三八、三九、四二、四三、四八、四九、五二、五三、六〇、六一、六四、六五、七〇、七一、七三ないし八四、八七、八八、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、前記通院日に対応するタクシー料金について領収証の存在する金額が二万六八三〇円であり、光生病院への通院に片道六八〇円のタクシー料金を要すると認められるから、領収証の存在しない八日分(平成四年四月一〇日、同年六月一五日、同月二九日、同年八月二四日〔片道〕、同年九月七日、同月一六日、同月一八日、同月二一日、同月二五日(片道〕)については、一万〇八八〇円の通院交通費を要したものと認められる。
すると、通院交通費は、三万七七一〇円となる。
5 入通院慰謝料 金一五〇万円
前記の入通院状況等諸般の事情を総合すると、入通院慰謝料は一五〇万円が相当である。
6 後遺症慰謝料 金二四〇万円
証拠(甲一〇〇の1、2、乙九、証人佐藤徹)によれば、原告は、本件交通事故により左大腿骨転子部骨折の傷害を負い、これにより歩行困難の機能障害及び手術痕醜状障害の後遺障害を受けていることが認められ、右機能障害はその運動可能領域の制限の状況(健側である右股関節の運動可能領域の四分の三以下に制限されているが、二分の一以下には制限されていない。)からすれば、自賠法施行令別表の一二級七号に該当し、右醜状障害は、その位置、範囲(左大腿部外側に一八センチメートル×二・五センチメートルの手術創)からすれば、同別表の一四級五号に該当するものと認められ、これに本件における諸般の事情を総合すると、後遺症慰謝料は二四〇万円が相当である。
9 逸失利益 金一三七万〇九九四円
証拠(原告本人)によれば、原告は大正一〇年二月二〇日生の女子であり、次の数値により、逸失利益を計算すると一三七万〇九九四円となる。
七〇歳の平均給与 一八万七〇〇〇円
就労可能年数 五年
新ホフマン係数 四・三六四
労働能力の喪失率 〇・一四
18万7000円×12×4.364×0.14=137万0994円
以上を合計すると金六三八万七八六三円となる。
五 抗弁1(過失相殺)について
前記に認定の本件交通事故の状況からすれば、本件交通事故の惹起について、交差道路の見通しが悪かつたのであるから、原告にも減速、前方左右の安全の確認を怠つた過失が認められ、その割合は三割とするのが相当である。
よつて、前記六三八万七八六三円からその三割を控除すると、金四四七万一五〇四円となる。
六 抗弁2(損害の填補)は当事者間に争いがないから、前記四四七万一五〇四円から填補額二八五万九〇九〇円を控除すると金一六一万二四一四円となる。
七 請求原因4(八)(弁護士費用)について
本件における弁護士費用としては金二〇万円が相当である。
本件訴訟前における交渉経過からしても、本件訴訟の提起が不必要あるいは不適当であるということはできず、この点についての被告の主張が採用できない。
九 以上の次第で、原告の本件請求は、金一八一万二四一四円及びこれから弁護士費用を控除した一六一万二四一四円に対する本件交通事故の日の翌日である平成三年一月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉波佳希)
交通事故現場見取図